チョコレートプリンの創造を続ける中で、ある日、壁にぶつかりました。どれほど素材を変えても、どれほど技法を工夫しても、心の奥で描く理想の味わいに辿り着けずにいたのです。それは、自分自身が「チョコレートプリン」という既存の枠組みに囚われていたからでした。
真に新しいチョコレートプリンを生み出すためには、まず固定観念を捨て去る必要がありました。そこで発想を転換し、チョコレートと組み合わせる素材から考え直すことにしたのです。
数多くの素材を検討する中で、ひときわ魅力的に映ったのがトンカ豆でした。この小さな豆は、フランス人が愛してやまない芳醇で神秘的な香りを持っています。トンカ豆に含まれるクマリンという成分が生み出す香りは、日本人には馴染み深い桜餅のような甘く上品な薫りに似ており、どこか懐かしい和の情緒を呼び起こします。
この発見により、新たな可能性が開かれました。従来のようにビターチョコレートの力強さに頼るのではなく、あえてキャラメルプリンに近い優しいミルクチョコレートを主役に据えることにしたのです。そこにほんの少しだけビターチョコレートを加えることで、甘さの中に深みのある大人の味わいを演出しました。
こうして生まれたトンカ豆のプリンは、従来のチョコレートプリンの枠組みを超越した、まったく新しい味覚体験となりました。トンカ豆の和風な香りとミルクチョコレートの優しい甘さが調和し、一口ごとに東洋と西洋の美意識が溶け合う、唯一無二のデザートが完成したのです。

