チョコレートプリンの創作を通じて学んだのは、素材との対話の大切さでした。そして次なる挑戦として向き合ったのが、チョコレートムースという表現形態でした。
プリンが様々な素材との調和を追求する芸術だとすれば、ムースはチョコレートそのものの本質を問う哲学のような存在です。トリュフのように様々な素材との複合的な味わいとは異なり、ムースはよりダイレクトに、そして純粋にチョコレートの魂を伝える媒体なのです。
このアプローチには覚悟が必要でした。最低限の素材だけで構成されるムースでは、隠すものも飾るものもありません。チョコレートの質そのものが、すべてを決定してしまうのです。まさに、素材の真価が試される究極の表現形態といえるでしょう。
だからこそ、選び抜いたのがペルーの限られた地域でのみ育つカカオブランコ、別名ホワイトカカオでした。「幻のカカオ」と呼ばれるこの貴重な品種は、その希少性だけでなく、独特な味わいの特性で知られています。
このカカオブランコが生み出すチョコレートには、はっきりとした豆の個性が宿っています。最初に感じるのは、輪郭のくっきりとした豆本来の力強さです。そこに、まるで上質なワインのようなぶどうを思わせる微かな酸味が寄り添います。確かな苦みを持ちながらも、その苦さは決して拒絶的ではなく、むしろ子どもたちにも愛される優しさを併せ持っているのです。
こうして生まれたチョコレートムースは、ペルーの山々で育まれた幻のカカオの物語を、最もシンプルで最も純粋な形で語り継ぐ作品となりました。一口ごとに感じられるのは、素材への敬意と、その素材が持つ本来の美しさを信じ抜いた職人の想いなのです。
